ROBOTS作・二条千河

 

 

登場人物

 

 一号機「セワ」

 二号機「ショクジ」

 三号機「ソウジ」

 四号機「センタク」

 五号機「ポンコツ」

 

 加賀博士(ロボット工学者)

 研究員1(一号機担当)

 研究員2(二号機担当)

 研究員3(三号機担当)

 研究員4(四号機担当)

 研究員5(五号機担当)

 

 大宮(ロボットのマスター)

 竹内(ロボットと同じ学校に通う少女)

 少年1・2・3

 

 

 

○研究室(一)

器状の物体から上方に伸びる光の柱が、暗い部屋の中に浮かんでいる。

それはロボットたちの動力源<コア>であり、輝く大きなごみ箱にも見える。

 

               目覚まし時計のアラーム音が鳴り出し、だんだん大きくなる。

人の動く気配が立ち、アラーム音が止まる。

と、いつしか部屋の中には、キーボードを叩く音や電子音が絶え間なく聞こえるようになっている。

               <コア>の前に、目覚まし時計を手にした人影が現れる。加賀博士である。

 

加賀      時計が少し遅れていたらしい。もう七時を過ぎている。

 

               加賀博士、時計を<コア>に捨てる。

               発せられる光が一瞬、燃え立つように大きくなる。

 

加賀     モーニング・プログラムの開始時刻だ。

研究員   了解。

 

               突然差し込む朝の光、デジタルな音楽。

               部屋の中には五体のロボットが横たわっている。その外見は人間の少女とまったく同じである。

               周辺には五つの机があり、それぞれにコンピュータ端末を載せている。

席には五人の研究員が座り、ロボットたちの様子を見ながら端末を操作する。

               ロボットのうちの一体、セワが体を起こす。

 

研究員1  一号機、起動を開始しました。

加賀     状態は?

研究員1  バッテリー、九十九・六パーセント充電完了。全システム異状ありません。

 

               セワに続いて、ショクジ、ソウジ、センタクが体を起こし、立ち上がる。

 

研究員2 二号機、起動中です。九十八・七パーセント充電、全システム異状なし。

研究員3 三号機、起動中です。九十九・二パーセント充電、全システム異状なし。

研究員4 四号機、起動中。九十七・九パーセント充電、異状ありません。

 

               やや遅れてポンコツも目覚めるが、うまく起きられない。セワが手伝い、ようやく立ち上がる。

 

研究員5 五号機、起動中です。バッテリー……七十二・五パーセント充電完了。

加賀     七十二、今日はいい方だな。システムの調子は?

研究員5 そちらの方はいつもどおり。

加賀     異状あり?

研究員5 許容範囲内です。

加賀     けっこう。IDコード入力。

研究員   了解。

 

               ロボットたちは五体整列している。

 

研究員1 コードナンバー001、承認されました。

セワ     我々は、ロボットである。ロボットのきょうだいである。内部には、同じオイルが流れている。私は一番古いロボットであり、飼い犬の世話、および他四台のロボットの補助制御を行う。だからセワと呼ばれる。

研究員2 コード002、承認されました。

ショクジ 私は二番目に古いロボット、食事の支度と片づけを行う。だからショクジと呼ばれる。

研究員3 コード003、承認されました。

ソウジ   私は三番目に古いロボット、家の中の掃除を行う。だからソウジと呼ばれる。

研究員4 コード004、承認。

センタク 私は四番目のロボット、洗濯を行う。だからセンタクと呼ばれる。

研究員5 コード005。

ポンコツ ピー、ガーガーガー。

セワ     一番新しいロボットは、とかく故障しがちである。仕事はない。だから、ポンコツと呼ばれる。

ポンコツ (ガクリと頷く)

研究員5 ……承認されました。

セワ     我々の行動は、全てドクター・加賀によってプログラムされている。プログラムは、絶対である。

ロボット プログラムは、絶対である。

研究員1 全機、正常に起動しました。

加賀     OK。モーニング・プログラム実行。

 

               ドアがノックされる。

 

大宮の声 ちょっといいかい?

加賀     おや。プログラムは一時中断だ。

 

               プレゼントの箱を手に、大宮が部屋に入ってくる。

 

加賀     おはようございます大宮さん。さあ、マスターにご挨拶を。

セワ     オトウサマ、オハヨウゴザイマス。

ロボット オハヨウゴザイマス。

大宮     おはよう。学校に行く準備はできたかい? 今日からという約束だったはずだね。

加賀     プログラムしておきましたよ。

セワ     午前七時五十分にホームを出発、八時五分学校到着予定。以降午後三時まではインプット済みの授業時間割に則して行動します。

大宮     そうか……五人だけで大丈夫かい。学校の方にはお父様からよろしくお願いしておいたけれど、もしも具合が悪くなったりしたら、無理せずに帰ってきてかまわないからね。

セワ     五体のうちいずれかの機能に著しい異状が見られた場合は、ただちにホームに帰還します。

大宮     そうしなさい。ところで今日お父様には、大事な仕事がいくつも入っていてね。帰りが少し遅くなるかも知れない。だからいいかい、いつものように、みんなで仲良くお留守番をしているんだよ。

セワ     かしこまりました。

大宮     (ポンコツに)ごめんな。今日はおまえの誕生日なのに。

ポンコツ ガガッ。

大宮     (箱を渡し)今のうちに渡しておこう。誕生日プレゼントだ。開けてごらん。

ポンコツ ……。

セワ     マスターの指令だ。ただちに開封せよ。

大宮     ああ、いいんだ。別に後で開けてもかまわない。

セワ     ……?

加賀     マスターの許可が下りたのだから、いいんですよ。

大宮     それじゃ、お父様は出かけてくるよ。

セワ     イッテラッシャイマセ。

ロボット イッテラッシャイマセ。

加賀     お気をつけて。

 

               大宮、去る。

 

センタク 誕生日プレゼント?

ソウジ   タンジョウビプレゼント?

ショクジ ロボットに誕生日はない。製造日があるだけだ。

加賀     そうです。しかしマスター・大宮は、君たちを人間だと思っている。

セワ     マスターは先日奥様を病気で亡くされた。それと同時に、五人のお子様をも失ってしまわれた。それ以来、マスターはおかしくなってしまわれたのだ。

ショクジ マスターは我々のことを、実のお子様だと思い込んでおられる。

ソウジ   だから我々は、マスター・大宮をオトウサマと呼ぶ。

センタク そのようにプログラムされている。

加賀     マスターだけではありません。学校の人も、みんな君たちを人間だと思うでしょう。君たちは、人間とそっくりに造られているから。

セワ     だが、我々は人間とは違う。

加賀     どこが?

セワ     我々には意思がない。我々は、プログラムによって動いている。

加賀     そのとおり。ではプログラムに従って、今日は学校に向かってください。出発時間に合わせて、モーニング・プログラムは十分短縮します。

 

               研究員たちが、机に掛けたカバンをそれぞれロボットに渡す。

               ロボットたちは受け取って整列するが、ポンコツだけはプレゼントの箱を持ったまま動かない。

 

セワ     ポンコツ。

ポンコツ (その声に反応し)オトーサマ、プレゼント、アリガトウ、ゴザイマ、ス。

セワ     ポンコツ、もう遅い。マスターはすでにお出かけになった。

ポンコツ オトーサマ、プレゼント、アリガトウ、ゴザイ、マ、ガガガピー。

 

               加賀博士、ポンコツの手から箱を取り、代わりに研究員5から受け取ったカバンを持たせる。

               ポンコツは止まっている。

               加賀が箱の中から人形を取り出す。

 

センタク あれは何だ?

ソウジ   何だ?

セワ     人形だ。オトウサマからのタンジョウビプレゼントだ。

ショクジ ロボットに人形は必要ない。

加賀     マスターの五番目の娘さんが好きだったんでしょうね。しかし確かに、君たちには必要のないものだ。私が預かっておきましょう。

ポンコツ ……。

加賀     モーニング・プログラムを再開。

研究員    了解。

セワ     全機、一階ダイニングルームへ向かう。確認。

ロボット 確認。

 

               ロボットたちが一列に並んで部屋を出ていく。

               加賀博士、<コア>の中に箱を捨て、続いて人形を入れる。

と、発せられている光が一瞬、燃え上がったように強くなる。

               それを傍らで見つめる加賀。

 

 

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