SEH8 新星来会

Short Escudo Huntthe 8th  New Stars are Coming

 

 

 

 

      登場人物

       ・「エスクードハンターズ」チーフ:藤谷

       ・「エスクードハンターズ」団員:哲多

       ・エスクード河野辺

       ・「エスクードハンターズ」団員1

       ・訪問客

       ・ロバート鈴木警部

       ・警官達

       ・仔猫の声

 

 

 

            *       *       *

 

 

      舞台は闇。

 

エスクードの声 「エスクードハンターズの諸君へ八番目の警告――本日午後五時、国立博物館より、名匠ミシェル・P・マカベの絵皿を頂戴する」

       

 

○国立博物館の裏 

 

      藤谷、見るからに変装しているといった格好でうろうろしている。

      団員1、息急き切って登場。

 

団員1      チーフ!

藤谷        (人差し指を立てて)シッ! やっと来たのか。

団員1    すいません。まだ、五時にはなってないですよね……ああ、よかった。

藤谷        一分前だ。四時半に来るって言ってたのに。

団員1    昨日の雨でいつもの道が通れなかったんですよ。大通りの方へ出たら、曲がり角を間違えたみたいで……哲ちゃんは?

藤谷        (首を横に振る)……。

団員1    独りで三十分も待ってたんですか。

藤谷        三時間だ。

団員1    二時から!?

藤谷        盗むのは五時でも、忍び込むのはいつかわからないじゃないか。     

団員1    それはそうでしょうけど。

 

      五時を告げる鐘の音が鳴り始める。

 

藤谷        五時だ……。

団員1    博物館の中は、警察が。

藤谷        ああ。

団員1    表門も?

藤谷        裏口も厳重に警備されている。だがあいつがそんなオーソドックスな所から出てくるものか。

団員1    それでここを通るって推測したわけですね。

藤谷        うん……。

団員1    他の所は、警察でいっぱいでしたよ。危うくつまみ出されるとこでした。

藤谷        私はつまみ出された。

団員1    ……見るからに怪しいですもんね。

 

      警察官たちのざわめきが、遠くから聞こえてくる。

 

藤谷        現れたか。

団員1    表の方ですよ。行きましょう。

藤谷        よし。

 

      団員1、走り去る。藤谷も続く。

高らかな足音と共に、エスクード河野辺登場。

      藤谷、すぐに戻ってくる。

 

藤谷        エスクード!

エスクード (振り返り)おや、誰かと思えば藤谷君か。

藤谷        その手にあるのは……!

エスクード この通り、マカベの絵皿は頂いた。残念だったな。

藤谷        渡すものか。返してもらうぞ。

エスクード そういうわけにはいかない。ミルク受けに丁度いいんでね。

藤谷        何?

エスクード 取り返せるものなら取り返してみるがいい。

 

      エスクード河野辺、身を翻す。

 

藤谷        逃がすか!

 

      藤谷、追いかけようとするが、走って来た哲多と衝突する。

 

哲多        うわっ!

藤谷        あ……哲ちゃん。

哲多        あ、藤谷さん、遅れてすいません。いや俺もまさか居残りさせられるなんて……。

藤谷        そこどいてくれ、エスクードが――。

ロバートの声 街道の方へ行ったぞ! 逃がすな!

 

      ロバート鈴木、警官達登場。

 

藤谷        ロバート!

ロバート   藤谷!(警官達に)おい何をやってる、追え!

 

      団員1、登場。警官達走る。

 

団員1    (肩で息をしている)チーフ! エスクードです!

藤谷        わかってる、すぐに追いかけるぞ。

団員1    違います、そっちじゃなくて、あっちに。

ロバート   何?

団員1    あっちに逃げていくのを見たんです。

藤谷        いつの間に。

ロバート   おい、あっちだ、戻ってこい!

 

      警官達が戻ってきたり、右往左往したり、パニックが起こる。

      そのさなか、一枚の紙片が藤谷の前に舞い降りる。

      藤谷、手を警官に踏まれながらも、何とかそれを拾う。

 

藤谷        ……これは。

 

      藤谷を残して、後ろのパニック集団は闇に消えていく。

 

藤谷        「エスクードハンターズ・チーフの藤谷君、今日はご苦労。今頃はさぞ残念がっていることと思うが、肩を落とすのはまだ早い」

 

      哲多、団員1、横から手紙をのぞきこむ。

 

団員1    「君達が今立っているその場所から東南の方向に、港があるのはご存じだろう。今度はその港に今夜帰港する船の積み荷を失敬する。まだ体力が残っているならぜひおいで願おう」

哲多        欲張りな奴め。今盗んだばかりだってのに。

藤谷        港か。急いでも二時間近くはかかるな。

団員1    まだ先があります。「もしも君達が私より早く着いたら、先刻頂いた絵皿は返してもいい」

哲多        ばかにしやがって。行きましょう、藤谷さん。

藤谷        ああ。

団員1    まだです。「ちなみにその船は午後六時に帰港する」

哲多        六時!

藤谷        哲ちゃん、すぐに馬車をどこかから借りてきてくれ。

哲多        は、はい!(走り去る)

藤谷        私達も行こう。

団員1    待ってください、あと一行。ええと……「せいぜい急ぐことだ、もっとも間に合うなどという期待はしていないがね」

藤谷        行くぞ!

 

      藤谷、団員1、退場。

 

 

○「エスクードハンターズ」事務所

 

      雑然とした事務所内、藤谷、哲多、団員1が眠っている。

      段ボールが二つ、「抗議文」「ファンレター」と書いてある。

      ドアをノックする音。三人は眠りこけている。

      幾度目かのノックの後、ドアが開く。

 

訪問客    入りますよ。……あのー。

 

      三人は眠り続ける。

 

訪問客    (藤谷に)すいません、あの……もしもし?

藤谷        (突然起き上がって)待て、エスクード!

訪問客    えっ?

藤谷        ……。

訪問客    あの。

藤谷        (訪問客を見る)……。

訪問客    ここ、エスクードハンターズの事務所ですよね?

藤谷        ……。マグロ。

訪問客    は?

 

      藤谷、再び眠りに落ちる。

      訪問客、哲多を起こそうとする。

 

哲多        (寝言)また逃げられた……畜生、エスクード、覚えてろよ、いつかおまえなんか、……おまえなんか……ZZZ。

訪問客    ……。

 

      訪問客、団員1を起こそうとする。

 

哲多        ハックション!

 

      訪問客、驚いて後方へ下がる。

 

団員1    (目覚めて、あくびをする)……哲ちゃん、風邪ひくよ。ほら、チーフも起きてくださいよ。もう朝ですよ。

藤谷        朝? ……さっき寝たばかりじゃないか。

団員1    ヤケになって夜通し今後の計画を立てるなんて言い出すからですよ。     

哲多        結局どうすることになったんでしたっけ。

藤谷        うん……ええと……何だっけ。

団員1    おかげで帰りそこねちゃいましたよ。

藤谷        いいじゃないか。お互い独り者なんだから。

団員1    僕はいいけど、哲ちゃんなんかは家の人が心配してるんじゃないの?

哲多        いいっスよ、別に。今日は学校休みだし。

 

      藤谷、伸びをする。けだるい間。

 

訪問客    あのー。

 

      三人、訪問客に気づく。

 

訪問客    ここ、エスクードハンターズですよね?

藤谷        そうだけど。君、いつからそこにいたの。

訪問客    勝手に入ってすみません。

団員1    何か用ですか。取材か何か? 

訪問客    ええ、まあ。

哲多        新聞っスか、それとも雑誌?

訪問客    いえ、別にわたし記者とかそういうのじゃないんです。ただ、個人的に興味があって。(新聞を出し)これ見て来たんです。昨日の事件。

 

      団員1、新聞を受け取る。

 

団員1    「エスクード、二冠達成」。

藤谷        何だ、それは。

団員1    一晩で二つも盗んだことを言ってるんじゃないですか。何たって前代未聞ですから。

哲多        俺達のこと、載ってます?

団員1    ちょっと待って……あった、「エスクードハンターズ八連敗!」。スポーツか何かの試合みたいですね。

藤谷        それで?

団員1    「エスクードハンターズは8分遅れで港に到着、その時すでにエスクード河野辺は現場から逃げ去っていた」……(新聞を畳みながら)三行とちょっとです。

藤谷        ああ、馬があればな。

哲多        ……。

団員1    やっぱり牛じゃ無理がありましたね。

訪問客    牛?

団員1    あれだったらちょっと遠いけど駅まで走って、汽車に乗った方がよかったですね。

藤谷        うん、牛に車引かせるよりはね。

哲多        牛しかいなかったんスよ……。

団員1    あ、いや、別に哲ちゃんを責めてるわけじゃなくて。

藤谷        それにしても、何であんな物を盗んだんだろうな。

団員1    えっ?

藤谷        昨日のあれさ。

哲多        ……そうっスね。おかしいっスよね。

団員1    好物なんじゃないですか。

藤谷        しかし盗むようなものじゃないだろう。わざわざ国立博物館から直行してまで。 

哲多      そうっスよ。それほどのもんじゃないっスよ。

藤谷        美術品や宝石ならともかく、あいつらしくない。

団員1    エスクードのことだから、気が向いただけでしょう。

藤谷        にしても、一度に二つも盗む必要があるかな。

哲多        そうっスよね、今回に限って。

団員1    盗まれた二つが何か関係しているってことですか?

藤谷        うん。

 

      沈思黙考。

 

団員1    でも、マグロですよ。

全員        ……。

団員1  何の関係があるって言うんですか。国立博物館から盗んだ国宝の絵皿と、漁船から盗んだマグロですよ。

藤谷        そうなんだよ……マグロなんだよな。

哲多        突然マグロの刺身が食べたくなったんスよ、そういうことってよくあるじゃないスか。

訪問客    そうかしら。

団員1    じゃあ絵皿の方は?

哲多        ……器にもこだわってみたかったんスよ。

 

      沈思黙考。

 

藤谷        ミルク受け……か。

団員1    え?

藤谷        いや、国立博物館から出ていく時に、そんなことを言ってたような気がするんだ、ミルク受けに丁度いい、とか何とか。

団員1    エスクードが?

哲多        牛乳を飲むためだったのか。マグロの刺身に牛乳なんて、どんな味覚してるんスかね。

訪問客    別にマグロと一緒に飲むと決まったわけじゃ。

藤谷        どういうことなんだ……?

 

      沈思黙考。

 

団員1    (伸びをして)とりあえず、朝飯にしましょうよ。僕、何か買ってきますから。

藤谷        ああ。

団員1    (訪問客に気付いて)あれ、君。

訪問客    はい。

団員1    何しに来たんだっけ。

藤谷        哲ちゃん。

哲多        はい?

藤谷        マグロは好き?

哲多        大好きっスよ。

藤谷        私もだ。だがエスクードがマグロ好きなんて記録はないな。

哲多        好きだから盗んだんでしょう。

藤谷        奴は自分で食べるために盗んだのだろうか。

哲多        他に誰が食べるんスか。

藤谷        じゃあミルク受けというのは? エスクードが牛乳を皿に入れて飲むのか? 犬や猫じゃあるまいし――。待てよ。

団員1    チーフ? どうかしたんですか。

藤谷        出かけるぞ。

哲多        え?

団員1    何かわかったんですか?

藤谷        まさかとは思うが、とにかく確かめてみよう。事によっては、あいつの次の狙いが予測できるかも知れない。

哲多        さすが藤谷さん! 行きましょう、早く。

団員1    朝飯は。

藤谷      どこかで買うさ。

 

      三人、慌ただしく退場しようとする。藤谷が振り返って。

 

藤谷        君。

訪問客    はい。

藤谷        時間大丈夫?

訪問客    ええ、あの。

藤谷        よかった。ここよろしく頼むよ。

訪問客    え?

 

      藤谷退場。入れ代わりに、普段着のエスクード河野辺が登場。

                    買い物帰りらしく、紙袋を抱えている。

      開け放したドアの向こうから、ドアの中をのぞく。

      中では訪問客が一人、雑然とした事務所内を見回している。

 

訪問客    汚い部屋……掃除でもしてようかな。

河野辺    (ノックして)失礼ですが、エスクードハンターズの事務所はこちらでしょうか。

訪問客    え……あ、はい、そうです。

河野辺    実はさっきこんなものを拾ったのですが。

訪問客    (受け取って)「エスクードハンターズの諸君へ」?

河野辺    ……あなたは団員なんですか?

訪問客    (手紙を興味深げに見つめている)ええ……。え、何ですか?

河野辺    いつ「エスクードハンターズ」に?

訪問客    いえ、わたしは団員じゃないんですよ。今朝新聞でエスクード河野辺の記事を読んで、興味を持って来てみただけで。

河野辺    そうですか。

訪問客    わたし、今まで知らなかったんですよ、エスクード河野辺があんなに格好いいだなんて。それで「エスクードハンターズ」に聞いたらもっと詳しいことがわかるんじゃないかなって思って、それだけなんです。(手紙を開きながら)それなのに、留守番頼まれちゃって、なんか成り行きで――あの、これ、どこにあったんですか?

河野辺    そこの通りに落ちていましたけど。どうかしました?

訪問客    これ、予告状じゃないですか! エスクード河野辺が藤谷さんに宛てて書いた。見てください、今夜の八時って……昨日もあったばかりなのに!

河野辺    そうですね。

訪問客    みんなに教えなくちゃ。まだその辺にいるかしら。すいませんけど、わたしちょっと……。            

河野辺    どうぞ、おかまいなく。

訪問客    (外へ向かって)藤谷さん……チーフ!

 

      訪問客、駆け出ていく。

 

河野辺    昨夜でさぞ疲れたことだろうが、もうひと頑張りしてもらおうか。もっとも、その苦労が実を結ぶとは思われないがね。では、私も今夜の準備があるから帰るとしよう。今頃は小さな相棒がお腹を空かせて待っているはずだ。

 

      エスクード河野辺、ドアへ歩み寄る。

 

河野辺      「エスクードハンターズの諸君へ九番目の警告――今夜午後八時、ホテルニューキャッスルスイートルームより最高級の毛布を、続いて午後九時、シキシマ百貨店六階催事場より籐のバスケットを頂戴する」。さて、相棒は次に何を欲しがるだろう。藤谷君、君はどう読むかな?

 

      エスクード河野辺、身を翻し、ドアへ。

      照明転換、舞台前方に藤谷達が登場。                 

 

訪問客の声 チーフ!

 

      呼び止められ振り向く三人。

      エスクードを含め四人の動きが止まる。

      どこからか、か細い仔猫の声――。

 

 

                            ― 幕 ―